死の秘宝
死の秘宝 (Deathly Hallows) は、ニワトコの杖・蘇りの石・透明マントという3つの品の総称です。『吟遊詩人ビードルの物語』に収められた「三人兄弟の物語」で、「死」が三人の兄弟に与えたとされる贈り物にあたります。3つを揃えた者は「死を制する者」になると伝えられていますが、これを信じる魔法使いはごくわずかです[1]。
三人兄弟の物語
秘宝の伝説は、『吟遊詩人ビードルの物語』に収められた「三人兄弟の物語」を出発点とします[1:1]。
三人の兄弟が旅の途中で深い川に行き当たり、魔法で橋をかけて渡ろうとすると、フードを被った「死」が行く手をふさぎます。獲物を逃した「死」は、賢い三人に褒美を与えると偽って、それぞれの望みを叶えました。戦闘好きの長兄は存在するどの杖よりも強い杖を求め、「死」は川岸のニワトコの木から杖を作って与えます。傲慢な次兄は人々を死から呼び戻す力を求め、「死」は川岸から石を拾って与えました。末の弟だけは「死」を信用せず、跡を追けられずに立ち去れるものを求めたので、「死」はしぶしぶ自分の透明マントを渡します[1:2]。
長兄は杖で決闘に勝ち、旅籠で自慢しているうちに、その晩のうちに杖を奪われて喉を掻き切られました。次兄は石で亡くなった恋人を呼び戻しますが、彼女はこの世になじめずに苦しみ、次兄は望みのない思慕の果てに自らの命を絶ちます。末の弟だけは「死」に見つからずに生き、老いてからマントを息子に譲りました[1:3]。
「しかし三番目の弟は、『死』が何年探しても、決して見つけることができませんでした。三番目の弟は、とても高齢になったときに、ついに『透明マント』を脱ぎ、息子にそれを与えました。そして三番目の弟は、『死』を古い友人として迎え、喜んで『死』とともに行き、同じ仲間として、一緒にこの世を去りましたとさ」
この物語に注釈を寄せたアルバス・ダンブルドアは、教訓のほうは疑いようがないと書いています[2]。
「三人兄弟の物語」の教訓は、間違うべくもない。死を回避せんとしたり克服せんとする人間の努力は、結局は失望に帰すということである。
ところが、この物語からは教訓と矛盾する伝説が生まれました。「死」が与えた3つの贈り物は実在する品であり、すべてを正当に所有した者は不敗で不死身の「死を制する者」になれる、という伝説です[2:1]。物語の本文に「死の秘宝」という語は出てきません。ゼノフィリウス・ラブグッドは、子ども向けのお伽噺だからだとハーマイオニー・グレンジャーに答えています[1:4]。
三つの品
ラブグッド家を訪れたハリー・ポッターたちに、ゼノフィリウスは羊皮紙に印を描きながら3つの品を示しました[1:5]。
「ニワトコの杖」ゼノフィリウスは、羊皮紙に縦線をまっすぐ一本引いた。「蘇りの石」と言いながら縦線の上に円を描き足し、「透明マント」と言いながら、縦線と円とを三角で囲んで、ハーマイオニーの関心を引いていたシンボルを描き終えた。
「三つを一緒にして」ゼノフィリウスが言った。「死の秘宝」
| 品 | 物語での由来 | 伝えられる力 |
|---|---|---|
| ニワトコの杖 | 「死」が川岸のニワトコの枝から作り、長兄に与えた | 決闘すれば必ず持ち主が勝つ |
| 蘇りの石 | 「死」が川岸から拾い、次兄に与えた | 死者を呼び戻す |
| 透明マント | 「死」自身の持ち物を末の弟に与えた | 着る者を完全に、永久に隠す |
ニワトコの杖
秘宝のうち、ニワトコの杖はもっとも足跡をたどりやすい品です。真の所持者となるには前の持ち主から杖を奪わねばならず、そのたびに持ち主が記録に残るからです[1:6]。ゼノフィリウスはこれを「血の軌跡」と呼び、極悪人エグバートが悪人エメリックを虐殺して杖を得たこと、ゴデロットが息子のヘレワードに杖を奪われて自宅の地下室で死んだこと、ロクシアスがバーナバス・デベリルを殺して杖を手に入れたことを挙げました[1:7]。
ダンブルドアの注釈はこの系譜をより詳しくたどっています。記録上最初のニワトコ材の杖は、中世初期に英国南部を荒らした悪人エメリックのもので、エメリックはエグバートとの最後の決闘に敗れて若くして命を落としました。一世紀後、闇の魔術書を著したゴデロットは、その執筆を助けた杖を、最も邪悪な魔法の道を心得た友と書き残しました。ゴデロットは息子ヘレワードに地下室へ閉じ込められて死にます。18世紀初頭にはバーナバス・デベリルが「庭床の杖」と称する杖で恐怖政治を敷き、ロクシアスがそれを奪って「死の杖」と改名しました[2:2]。杖はこのほか「宿命の杖」の名でも呼ばれます[3]。
ニワトコ材そのものが杖作りに嫌われる傾向があり、諺にもなっています[2:3]。
ニワトコの杖、永久に不幸
ロクシアスから先の行方は途絶えていましたが[1:8]、杖はやがて杖作りのグレゴロビッチの手に渡り、そこからゲラート・グリンデルバルドが盗み出しました。グリンデルバルドを決闘で破ったダンブルドアが次の持ち主となり[3:1]、ダンブルドアの死の直前にドラコ・マルフォイが彼を武装解除したことで、杖の忠誠はドラコへ移ります[4]。ドラコ自身はそれを知らないままでした[5]。
ヴォルデモートはダンブルドアの墓を暴いて杖を手に入れ、真の所有者になるためにセブルス・スネイプを殺しました。しかし杖の忠誠はスネイプにはなく、マルフォイの館でドラコの杖を奪ったハリーに移っていました[6][5:1]。
蘇りの石
蘇りの石は、手の中で三度回すと死者を呼び戻すとされます[1:9]。
この石は、ヴォルデモートの祖父マールヴォロ・ゴーントが所有していた指輪にはめられていました。ゴーントは石に刻まれた傷をペベレル家の紋章だと信じ、純血の証として魔法省の役人に見せびらかしています[7]。ヴォルデモートはこの指輪を分霊箱の一つに変えましたが、それが秘宝であることには気づいていませんでした[8]。
ダンブルドアは長年かけてゴーントの廃屋に埋められた指輪を探し当て、分霊箱であることも呪いがかかっていることも忘れて指輪をはめてしまいます。呪いは片手に封じ込められたものの、一年ほどで全身に広がると見込まれていました[9][8:1]。割れた石は金のスニッチに収められ、遺言でハリーに遺されます。スニッチには「私は終わるときに開く」という言葉が刻まれていました[10]。
透明マント
物語では「死」自身の持ち物とされる品です。旅行用のマントに目くらまし術をかけたものや葉隠れ獣の毛で織ったものとは違い、真の透明マントは着る者を完全に隠し、色褪せることも呪文で見通されることもありません[1:10]。
ハリーの持つマントはこの説明と寸分違いませんでした[11]。イグノタス・ペベレルから代々受け継がれたもので、ハリーの父ジェームズ・ポッターが死の数日前にダンブルドアへ見せ、ダンブルドアが借り受けて調べていました[8:2]。
秘宝の印
縦線の上に円を重ね、その両方を三角で囲んだ形が、秘宝の印です。信奉者はこの印を、探求を助けてくれる仲間に自分を明かすために用います。闇の魔術とは関係がない、とゼノフィリウスは述べました[1:11]。
ハリーがこの印を最初に見たのは、ビルとフラーの結婚式で、金鎖のペンダントとしてゼノフィリウスの首にかかっているところでした[12]。ヴィクトール・クラムはそれをグリンデルバルドの印だと断じています。グリンデルバルドが学生時代にダームストラング専門学校の壁に彫り、それを真似た者たちがいたためでした[12:1]。
ハリーとハーマイオニーはその後、ハーマイオニーが遺贈された『吟遊詩人ビードルの物語』の「三人兄弟の物語」の題の上に同じ印を見つけ[13]、ゴドリックの谷の墓地では、判読しかけた墓石の名の下にも同じ形を見ています。その墓の名がイグノタス・ペベレルでした[13:1]。
ラブグッド家を訪ねたハリーがこの印の意味を尋ねたとき、ゼノフィリウスは「『死の秘宝』の印のことかね?」と応じました。作中に「死の秘宝」の語が現れるのは、この場面が最初です[14]。
ペベレル家
秘宝の探求者の多くは、物語の三兄弟をアンチオク・カドマス・イグノタスというペベレル家の三兄弟の実話だと考え、彼らこそ秘宝の最初の持ち主だと見ます。ゼノフィリウスはイグノタスの墓石に刻まれた印を決定的な証拠と呼びました[1:12]。
ペベレル家は『生粋の貴族――魔法界家系図』に名の載る純血の家系で、男子の血筋は何世紀も前に絶えています。子孫は別の姓を名乗っているとハーマイオニーは説明しました[11:1]。実際、マールヴォロ・ゴーントは自らをペベレルの子孫と称しており[7:1]、透明マントはイグノタスから代々受け継がれてハリーに至っています[8:3]。
ダンブルドアは、三兄弟が本当に「死」に出会ったのかどうかには懐疑的でした[8:4]。
「そうじゃとも。わしはそう思う。兄弟が寂しい道で『死』に遭うたかどうかは……わしはむしろ、ペベレル兄弟が才能ある危険な魔法使いで、こうした強力な品々を作り出すことに成功した可能性のほうが高いと思う。そうした品々が『死』自身の秘宝であったという話は、作られた品物にまつわる伝説としてでき上がったものじゃろう」
死を制する者
「死を制する者 (Master of Death)」の意味は、作中で二度示されます。
ゼノフィリウスの説明では、3つの品を集めた持ち主がそれにあたります[1:13]。
「それは子どものお伽噺だから、知識を与えるというより楽しませるように語られている。しかし、こういうことを理解している我々の仲間には、この昔話が、三つの品、つまり『秘宝』に言及していることがわかるのだ。もし三つを集められれば、持ち主は死を制する者となるだろう」
ダンブルドアの注釈も、伝説の内容としては同じく「不敗で不死身の者」と記しています[2:4]。
これに対して、キングズ・クロスでダンブルドアがハリーに告げた定義は、所有の問題ではありません[8:5]。
きみは真に死を克服する者じゃ。なぜなら、真の死の支配者は、『死』から逃げようとはせぬ。死なねばならぬということを受け入れるとともに、生ある世界のほうが死ぬことよりもはるかに劣る場合があると理解できる者なのじゃ
ハリーが3つの品を同時に手にしたことは一度もありません。禁じられた森へ向かったとき、ハリーが持っていたのはマントと石だけで、ニワトコの杖はヴォルデモートの手にありました[15]。
秘宝を求めた者たち
ダンブルドアとグリンデルバルド
ダンブルドアがゴドリックの谷でグリンデルバルドと出会った夏、二人の計画の中心には秘宝がありました。グリンデルバルドがこの村に惹かれた理由も、イグノタス・ペベレルの墓、すなわち末の弟が死んだ場所にあります[8:6]。
二人にとって、不敗の杖は権力へ導く武器でした。グリンデルバルドにとっての石は亡者の軍隊を意味し、ダンブルドアにとっては両親が戻り重荷が下ろされることを意味していました。マントだけは、二人とも姿を隠す魔法を使えたため、3つを揃えるための最後の一つという以上の話題にはなりませんでした[8:7]。弟のアバーフォースは、この計画のためにアリアナの世話が二の次にされたと語っています[16]。
アリアナの死で二か月の夢は終わり、グリンデルバルドは秘宝の夢を持ったまま姿を消します。のちにダンブルドアは決闘でグリンデルバルドを破って杖を勝ち取り、ゴーントの指輪も見つけ出しました。しかしダンブルドアは、自分は3つを一つにまとめるに値しない人間であり、秘宝のうちもっとも劣る杖を、吹聴せず人を殺さずに持つことだけがふさわしかったと述懐しています[8:8]。
ヴォルデモート
ヴォルデモートは秘宝を知りませんでした。その一つを手に入れながら分霊箱に変えてしまった事実が、そのまま証拠になっています[11:2][8:9]。
ヴォルデモートがニワトコの杖を追ったのは、ハリーの杖に敗れた原因を自分の側に探さず、すべての杖を破るという杖のほうに求めたためでした。マントは必要と考えず、石についても、誰も愛さない彼には呼び戻したい死者がいませんでした[8:10]。杖作りのオリバンダーも、ヴォルデモートが求めているのはハリーを滅ぼすためだけでなく、真に無敵になるためだと証言しています[3:2]。
ハリー・ポッター
ゼノフィリウスの説明を聞いた夜から、ハリーは秘宝に取り憑かれました。透明マントは自分の手にあり、指輪はスニッチの中にあるはずで、残るニワトコの杖をヴォルデモートが追っている——そう結論したハリーは、分霊箱ではなく秘宝を集めることこそ勝つ道ではないかと考え始めます[11:3]。ハーマイオニーは勘違いだと断じ、ロンも分霊箱を追うべきだという判断に傾きました[11:4]。
ドビーの死のあと、貝殻の家でハリーは「分霊箱か、秘宝か」の択一を迫られ、分霊箱を選びます[3:3]。
ハリーが石を手にしたのは、自分が死ななければならないと知って禁じられた森へ向かうときでした。スニッチに刻まれた「終わるとき」の意味を悟ったハリーの手の中で球は割れ、ニワトコの杖を表す縦線に沿って裂けた石が現れます。三度回すと両親とシリウス・ブラック、リーマス・ルーピンが現れ、ハリーが焚き火の灯りへ歩み出たとき、石は感覚のない指から滑り落ちました[15:1]。
ヴォルデモートの死後、ハリーはニワトコの杖の所有者になりましたが、それを使い続けることは選びませんでした。折れていた柊の杖を直すことにだけ使い、杖を元の場所へ戻すと決めます[5:2]。
「元の場所に戻します。杖はそこに留まればいい。僕がイグノタスと同じように自然に死を迎えれば、杖の力は破られるのでしょう? 最後の持ち主は敗北しないままで終わる。それで杖はおしまいになる」
登場・言及箇所
- 『ハリー・ポッターと謎のプリンス』
- 第10章「ゴーントの家」
- 第27章「稲妻に撃たれた塔」
- 『ハリー・ポッターと死の秘宝』
- 第7章「アルバス・ダンブルドアの遺言」
- 第8章「結婚式」
- 第16章「ゴドリックの谷」
- 第20章「ゼノフィリウス・ラブグッド」
- 第21章「三人兄弟の物語」
- 第22章「死の秘宝」
- 第23章「マルフォイの館」
- 第24章「杖作り」
- 第28章「鏡の片割れ」
- 第33章「プリンスの物語」
- 第34章「再び森へ」
- 第35章「キングズ・クロス」
- 第36章「誤算」
- 『吟遊詩人ビードルの物語』
脚注
『ハリー・ポッターと死の秘宝』第21章「三人兄弟の物語」 ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎
『ハリー・ポッターと謎のプリンス』第27章「稲妻に撃たれた塔」 ↩︎
『ハリー・ポッターと死の秘宝』第23章「マルフォイの館」 ↩︎
『ハリー・ポッターと死の秘宝』第35章「キングズ・クロス」 ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎
『ハリー・ポッターと死の秘宝』第33章「プリンスの物語」 ↩︎
『ハリー・ポッターと死の秘宝』第7章「アルバス・ダンブルドアの遺言」 ↩︎
『ハリー・ポッターと死の秘宝』第20章「ゼノフィリウス・ラブグッド」 ↩︎
『ハリー・ポッターと死の秘宝』第28章「鏡の片割れ」 ↩︎