死の秘宝

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強力な魔力を持つ三つの品物、「ニワトコの杖」「蘇りの石」「透明マント」のことです。伝説では、『死』そのものが創り出し、とある三人兄弟のそれぞれに与えたものとされています。

この秘宝を三つ揃えた者は、「死を制する者」になるといわれています。

歴史

起源

『三人兄弟の物語』

「それは子供のお伽噺だから、知識を与えるというより楽しませるように語られている。しかし、こういうことを理解している我々の仲間には、この昔話が、三つの品、つまり『秘宝』に言及していることがわかるのだ。もし三つを集められれば、持ち主は死を制する者となるだろう」

ゼノフィリウス・ラブグッド 『ハリー・ポッターと死の秘宝』第21章

『吟遊詩人ビードルの物語』に収められているお伽噺のひとつ、『三人兄弟の物語』に「死の秘宝」の起源といわれている物語が語られています。

昔々、ある三人の兄弟が夕暮れ時に旅をしていると、歩いたり泳いだりしては渡れない危険な川に着きました。三人は魔法を学んでいたので、杖の一振りでこの川に橋をかけ、川を渡ろうとしました。

ところが半分ほど渡ったところで、三人はフードを被った『死』が行く手を阻んでいるのに気づきます。『死』は三人兄弟に出し抜かれて腹を立てていました。たいてい、旅人はその川で溺れ死んでいたからです。狡猾な『死』は三人の魔法を褒めるふりをして、『死』を免れるほど賢い三人に褒美をあげると申し出ます。

一番上の兄は戦闘好きだったので、存在するどの杖よりも強い杖が欲しいと言いました。『死』は川岸にあったニワトコの木の枝から杖を作り、それを一番上の兄に与えました。

二番目の兄は傲慢な男だったので、『死』をもっと辱めてやりたいと思い、人々を『死』から呼び戻す力を求めました。『死』は川岸から石を拾って二番目の兄に与え、その石は死者を呼び戻す力を持つだろうと言いました。

三番目の弟は兄弟の中でいちばん謙虚で、しかもいちばん賢く、『死』を信用していませんでした。『死』に跡をつけられずに先に進めるようにするものがほしい、と三番目の弟は申し出ました。そこで、『死』はしぶしぶ自分の持ち物だった「透明マント」を三番目の弟に与えました。

この物語に登場する「ニワトコの杖」「蘇りの石」「透明マント」が、「死の秘宝」とされる品々です。しかし、この物語中では直接「死の秘宝」の名称は登場しません。

ペベレル兄弟

『三人兄弟の物語』に登場する兄弟は、実在したアンチオク・ペベレルカドマス・ペベレルイグノタス・ペベレルであるとされています。ゴドリックの谷にイグノタス・ペベレルの墓があり、その墓には「死の秘宝」の印が刻まれています。

アルバス・ダンブルドアの説

「[…]わしはむしろ、ペベレル兄弟が才能ある危険な魔法使いで、こうした強力な品々を作り出すことに成功した可能性のほうが高いと思う。そうした品々が『死』自身の秘宝であったという話は、作られた品物にまつわる伝説としてでき上がったものじゃろう」

――アルバス・ダンブルドア 『ハリー・ポッターと死の秘宝』第35章

『三人兄弟の物語』の中で『死』が兄弟に与えた三つの品物は、兄弟に対する褒美であると同時に、兄弟を『死』が自分のものにするために、つまり三人の命を奪うために与えたものでした。

アルバス・ダンブルドアはペベレル兄弟が本当に『死』に遭遇したのではなく、兄弟が強力な魔法使いで、三つの品物を作るのに成功したのではないかと信じていました。ダンブルドアは『三人兄弟の物語』が、三つの品々にまつわる伝説として語られるようになったのだと考えていました。

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「死の秘宝」の来歴

「ニワトコの杖」

『三人兄弟の物語』で「ニワトコの杖」を手にした一番上の兄は、一週間ほど旅を続け、争っていた魔法使いを探し出しました。「ニワトコの杖」を手にした一番上の兄は、当然その敵との決闘に勝利します。一番上の兄は敵の亡骸を置き去りにして旅籠に行き、『死』から奪った杖について大声で話し、自分は無敵になったと自慢しました。

その晩、ワインに酔いつぶれて眠っていた一番上の兄に、ある魔法使いが忍び寄りました。盗人は「ニワトコの杖」を奪い、ついでに一番上の兄の喉を掻き切りました。

その後、無敵の杖とされる杖は、「宿命の杖」「死の杖」などと名前を変えながら、決闘である人物から別の人物へと受け継がれていたと考えられます。ゼノフィリウス・ラブグッドによれば、アーカスリビウスのどちらかがこの杖を勝ち取ったというところで、この杖の足跡は途絶えています。そして「ニワトコの杖」の行方ははっきりしないまま、20世紀を迎えます。

「蘇りの石」

『三人兄弟の物語』で「蘇りの石」を手に入れた二番目の兄は、そのまま一人暮らしをしていた自宅へ戻りました。すぐに「石」を手の中で三度回すと、若くして死んだ、かつて結婚を夢見た女性が現れました。しかしその女性は無口で冷たく、この世に戻ってはきたものの、完全にはこの世にはなじめずに苦しみます。二番目の兄は気も狂わんばかりになり、本当の意味で彼女と一緒になるために、自ら命を断ってしまいました。

「蘇りの石」は、やがて「二番目の兄」カドマス・ペベレルの子孫であるゴーント家に受け継がれました。しかし、ゴーント家の子孫はこの「石」がどんな力を持っているかは知らなかったようです。

20世紀、ゴーント家の末裔のマールヴォロ・ゴーントは、この「石」が嵌められた指輪を身に着けていました。「石」には「死の秘宝」の印が刻まれていましたが、マールヴォロ自身は「ペベレル家の印」と認識していました。マールヴォロ・ゴーントの孫、トム・リドル(のちのヴォルデモート卿)はこの指輪を奪うと、「蘇りの石」の力を知らずに自身の分霊箱にします。

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「透明マント」

『三人兄弟の物語』で「透明マント」を手に入れた三番目の弟は、物語によれば、とても高齢になった時に「マント」を脱ぎ、それを息子に与えたといわれています。

やがて、「透明マント」は「三番目の弟」イグノタス・ペベレルの曾孫の魔女アイオランシー・ペベレルに受け継がれました。アイオランシーの世代には男性がおらず、女性で年長の子孫であるアイオランシーが曾祖父の「透明マント」を相続していました。

アイオランシーは魔法使いハードウィン・ポッターと結婚しました。アイオランシーは夫に「透明マント」を所有していることは秘密にしておくのがペベレル家の伝統だと伝え、ハードウィンもそのことを尊重しました。二人の結婚以来、「透明マント」はポッター家の年長の子孫に代々受け継がれていきました(Pottermore – The Potter Family)

20世紀にはポッター家の末裔ジェームズ・ポッターがこの透明マントを所有していました。ジェームズはホグワーツでの学生時代、この「透明マント」を使って数々の悪戯をしています。この「透明マント」が一時的にアルバス・ダンブルドアの手元に渡っている間に、ジェームズとその妻リリーヴォルデモート卿の手にかかり殺されました。ジェームズとリリーの息子、ハリーは辛くも生き延びました。

1991年、ハリー・ポッターがホグワーツ魔法魔術学校の1年生のときのクリスマスに、アルバス・ダンブルドアは匿名でこの「透明マント」をハリーに贈ります。ポッター家から離れていた「透明マント」は、こうして本来の所有者の手元に戻りました。

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ゲラート・グリンデルバルドとアルバス・ダンブルドア

アルバス・ダンブルドアはホグワーツを卒業してまもなく、のちに闇の魔法使いとして知られるゲラート・グリンデルバルドと出会います。二人は「より大きな善のために」をスローガンに、新しい世界の秩序の計画を練り、魔法使いがマグルを支配すること、そして「死の秘宝」を揃えて「死を制する者」になることを夢見ました。しかし、ダンブルドアが病弱な妹アリアナの世話をないがしろにしたため、家族と険悪になり、結果的にアリアナを死なせてしまいました。やがてグリンデルバルドとダンブルドアは決別しますが、ダンブルドアの「死の秘宝」への興味がなくなったわけではありませんでした。

20世紀はじめ、グリンデルバルドは杖作りのグレゴロビッチが「ニワトコの杖」を持っていることを突き止め、「ニワトコの杖」を奪うことに成功しました。グリンデルバルドは闇の魔法使いとして勢力を拡大しましたが、1945年、ダンブルドアと決闘して敗北します。これ以来、「ニワトコの杖」はダンブルドアが所有していました。

1996年夏、ダンブルドアはリトル・ハングルトンにあるゴーント家の掘っ立て小屋を訪れると、ヴォルデモートの分霊箱になっていたマールヴォロ・ゴーントの指輪と、そこについていた「蘇りの石」を見つけます。ダンブルドアは、その指輪が分霊箱であることも、確実に呪いがかかっていることも忘れ、その指輪を身に着けてしまいます。ダンブルドアは「蘇りの石」で両親や妹のアリアナを呼び戻し、どれだけすまなく思っているかを伝えられると思っていました。セブルス・スネイプの手助けもあり、ダンブルドアの片手に呪いを留めることに成功したものの、その呪いはダンブルドアの命を縮めました。

やがてダンブルドアハリー・ポッターが初めてのクィディッチの試合で捕獲した金のスニッチの中に、「蘇りの石」を隠しました。ダンブルドアは遺書をしたため、この金のスニッチをハリーに遺します。

1997年6月、ダンブルドアセブルス・スネイプに殺害されました。ダンブルドアが所有していた「ニワトコの杖」は、最強の杖であるとは公に知られることなく、亡骸と一緒に埋葬されました。

ダンブルドアの死は事前に計画されたもので、スネイプは事前に交わしていた約束でダンブルドアを殺害しました。この計画で「ニワトコの杖」の持ち主はスネイプとなる算段でしたが、実際にはそうではありませんでした。ダンブルドアの死の直前にダンブルドアを「武装解除」したドラコ・マルフォイが、「ニワトコの杖」の真の持ち主となっていました。

1998年、ハリー・ポッターとの戦いの中で最強の杖を求めていたヴォルデモート卿は、やがて「ニワトコの杖」のことを知りました。ヴォルデモートは「ニワトコの杖」の足跡をたどり、ヌルメンガードに幽閉されていたグリンデルバルドのもとにたどり着きました。グリンデルバルドは「『ニワトコの杖』を所有していたことなどない」と嘘をつき、ヴォルデモートに殺されます。

ヴォルデモートはダンブルドアの墓を暴き、「ニワトコの杖」を手に入れます。しかし、杖の真の持ち主となるには所有しただけでは不十分で、前の持ち主を打ち負かす必要がありました。ヴォルデモートは「ニワトコの杖」を手にしたものの、真の持ち主にはなれませんでした。

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ハリー・ポッター

ハリー・ポッターは1997年、ゼノフィリウス・ラブグッドから「死の秘宝」について聞かされると、ヴォルデモートを打ち負かすために「死の秘宝」を集めようかとも考えました。しかし、亡きダンブルドアハリーに託したのはヴォルデモートの「分霊箱」をすべて破壊することだと考え直し、ハリーは最終的にこの考えを捨てました。しかし、実際にハリーは三つの「秘宝」を同時に所有した唯一の人物となります。

「死の秘宝」についてハリーが知る前から、「秘宝」のひとつ「透明マント」は、ポッター家の末裔であるハリーが正当に継承した品でした。ハリーの父ジェームズは死の数日前、ダンブルドアに自身の所有する「透明マント」を見せており、ダンブルドアにはそれが「死の秘宝」のひとつであるとわかりました。ダンブルドアジェームズに「借り受けて調べてみたい」と頼みました。ところが「透明マント」がダンブルドアの手元にある間に、ジェームズとその妻リリーが殺されました。二人の息子であるハリーは、ホグワーツ1年生のときのクリスマスに、この透明マントを匿名で贈られます。のちに贈り主がダンブルドアであることも明らかになりました。

魔法界に飛び込むハリー。
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1997年6月のダンブルドアの死後、遺言により、ハリーは自分が初めてのクィディッチの試合で捕まえたスニッチをダンブルドアから相続しました。このスニッチはハリーが飲み込んで捕まえたもので、ハリーがスニッチを口に入れると、表面に「私は終わる時に開く」の文が現れました。ホグワーツの戦いの最中、ハリーはこの文が「自分が死に直面した時に開く」という意味だと気づき、スニッチを唇に押し当てて「僕は、間もなく死ぬ」とつぶやきます。この言葉でスニッチは開き、ハリーは「蘇りの石」を手に入れました。

「蘇りの石」の力でハリーは自分の両親のジェームズリリー、父の親友のシリウス・ブラックリーマス・ルーピンを呼び戻し、4人との一時的な再会も力にして、直後にヴォルデモートと対峙します。しかしこのとき、ハリーは禁じられた森のどこかに「蘇りの石」を落としてしまいました。ハリーはもう誰も「蘇りの石」を探し求めることがないよう、このことをダンブルドアの肖像画以外には話しませんでした。

これに先立ち、1998年3月ころ、ハリーはマルフォイの館でドラコ・マルフォイと戦い、ドラコを倒していました。この時点で、「ニワトコの杖」は真の持ち主であるドラコを倒したハリーを真の持ち主と認識しました。

ホグワーツの戦いの最後でハリーヴォルデモートが対決した際には、ハリーは「ニワトコの杖」に一度も触れたことがないにも関わらず、「ニワトコの杖」の真の持ち主でした。この対決で「ニワトコの杖」はヴォルデモートの手を離れ、ハリーの元に飛んできます。ヴォルデモートは「ニワトコの杖」を使って死の呪文を放ちましたが、この呪文が跳ね返って死にました。

ハリーは「ニワトコの杖」の真の持ち主で、ついにその杖を所有しましたが、この杖を欲しいとは思いませんでした。ハリーは壊れていた自分の杖を直すためだけに「ニワトコの杖」を使い、アルバス・ダンブルドアの墓にこの杖を返しました。ハリーは自分が自然な死を迎えれば「ニワトコの杖」の力が失われると考えていました。

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登場・言及箇所

  • 『ハリー・ポッターと賢者の石』
  • 『ハリー・ポッターと秘密の部屋』
  • 『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』
  • 『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』
  • 『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』
  • 『ハリー・ポッターと謎のプリンス』
  • 『ハリー・ポッターと死の秘宝』
  • 『吟遊詩人ビードルの物語』
  • ポッターモア(現:Wizarding World)