分霊箱

分霊箱 (Horcrux) は、自らの魂の一部を切り離して隠した物です。作るには殺人を犯す必要があり、肉体が破壊されても魂の一部が地上に留まるため、その者は死ぬことができなくなります[1]。闇の魔術のなかでも最も深いものとされ、ホグワーツでは話題にすること自体が禁じられていました[1:1]ヴォルデモートは魂を7つに分けることを企て、6つの分霊箱を作っています[1:2]

基本情報

名称: 分霊箱 (Horcrux)。刊行訳は原語を音写した「ホークラックス」も併用する
分類: 闇の魔術
作成の条件: 殺人を犯すこと。殺人が魂を引き裂き、その断片を物に封じる
効果: 肉体が滅んでも魂の一部が地上に残り、死ぬことができない
破壊: 魔法で修復できない状態にすること。バジリスクの毒・それを吸収したグリフィンドールの剣・悪霊の火

分霊箱とは

この語がどういうものを指すかは、ホラス・スラグホーンがホグワーツの生徒だったトム・リドルに与えた説明で明かされます[1:3]

『ハリー・ポッターと謎のプリンス』第23章「ホークラックス」

「まあ、勿論、ざっとしたことを君に話しても別にかまわないだろう。その言葉を理解するためだけになら。ホークラックスとは、人がその魂の一部を隠すために用いられる物を指す言葉で、分霊箱のことを言う」

魂を分けて肉体の外の物に隠しておけば、肉体が攻撃され破壊されても死ぬことはありません。魂の一部が損なわれないまま地上に留まるからです。ただしそのような形で存在することを望む者はほとんどいない、とスラグホーンは言い添えています[1:4]

作り方

分霊箱を作るには、殺人を犯さなければなりません[1:5]

『ハリー・ポッターと謎のプリンス』第23章「ホークラックス」

「邪悪な行為――悪の極みの行為による。殺人を犯すことによってだ。殺人は魂を引き裂く。分霊箱を作ろうと意図する魔法使いは、破壊を自らのために利用する。引き裂かれた部分を物に閉じ込める――」

リドルはさらに、魂を7つに分けることができるかとスラグホーンに尋ねました。7が最も強い魔法数だという理由からです。スラグホーンは、1人を殺すことすら十分に悪いのに、魂を7つに引き裂くとは、と絶句しています[1:6]

性質

分霊箱に隠された魂の欠片は、ただ保管されているだけの物ではありません。

日記から現れたリドルは自分で考えて行動し、ジニー・ウィーズリーの命を吸い取ろうとしました。単なる記憶にはできないことで、そこに宿っていたのは魂の欠片だとダンブルドアは判断しています[1:7]

身につけた者の心を読み、その恐れを言葉にして揺さぶることもあります。スリザリンのロケットは、破壊されようとしたときにロン・ウィーズリーへ語りかけました[2]

『ハリー・ポッターと死の秘宝』第19章「銀色の牝鹿」

「おまえの夢を俺様は見たぞ、ロナルド・ウィーズリー。そして俺様はおまえの恐れも見たのだ。おまえの夢見た望みは、すべて可能だ。しかし、おまえの恐れもまたすべて起こりうるぞ……」

危険を察知すると抵抗もします。このロケットはグリフィンドールの剣の存在を感じ取り、ハリーに所有させまいとして鎖で絞め殺そうとしました[2:1]。首にかけて持ち歩いていたあいだは脈打つようにも動き、ゴドリックの谷でバチルダの家に入ったときには、ハリー自身の心臓より速く拍動しました[3][4]

一方で、作り手の側は分霊箱が壊されたことを感じ取れません。ハリーの問いに、ダンブルドアはこう答えています[1:8]

『ハリー・ポッターと謎のプリンス』第23章「ホークラックス」

「非常に興味ある質問じゃ、ハリー。答えは否じゃろう。ヴォルデモートはいまや、どっぷりと悪に染まっておるし、さらに自分自身の肝心な部分である分霊が、ずいぶん長いこと本体から切り離されておるので、我々が感じるようには感じない。たぶん、自分が死ぬ時点で、あの者は失った物に気づくのであろう……たとえば、ルシウス・マルフォイの口から真実を吐かせるまで、あの者は日記が破壊されてしまったことに気づかなんだ

実際、ハッフルパフのカップを奪われたあとにヴォルデモートが指輪の喪失を知ったのも、ゴーントの小屋へ確かめに行き、隠し場所が空になっているのを目にしたからでした[5]

破壊

引き裂く、打ち砕く、押し潰すだけでは足りません。魔法で修復できない状態にする必要があります[6]

『ハリー・ポッターと死の秘宝』第6章「パジャマ姿の屋根裏お化け」

「問題は、バジリスクの毒と同じ破壊力を持つ物質はとても少ないということ。しかも持ち歩くには危険なものばかりだわ。私たち、これからこの問題を解決しなければならないわね。だって、分霊箱を引き裂いたり、打ち砕いたり、押しつぶしたりするだけでは効果なしなんだから。魔法で回復することができない状態にまで破壊しないと、いけないわけなのよ」

作中で使われた手段は3つです。

手段 補足
バジリスクの毒 解毒剤は不死鳥の涙のみで、極めて稀[6:1]
グリフィンドールの剣 秘密の部屋でバジリスクを刺した際に毒を吸収した。小鬼細工の刃は自らを強くするものだけを取り込む[7]
悪霊の火 呪われた火。ハーマイオニーは危険すぎて使う気になれなかったと述べる[8]

ハーマイオニーが述べたのは、バジリスクの毒と同じ破壊力を持つ物質がとても少ないということであって、有効な手段を網羅したわけではありません[6:2]

破壊された分霊箱には目に見える損傷が残ります。日記は無残な残骸となり、指輪は石が割られました。品が無傷であることは、まだ壊されていない証しになります[3:1]。破壊されると、中に宿っていたものは消えます[2:2]

禁じられた知識

分霊箱について書かれた資料は、ほとんど存在しません。ホグワーツの図書館では禁書の棚まで調べても、分霊箱が何をするものかの説明を一つも見つけられなかった、とハーマイオニーは報告しています[9]。スラグホーンも、ホグワーツで詳細を書いた本を見つけるのは骨だとリドルに述べていました[1:9]

『ハリー・ポッターと謎のプリンス』第23章「ホークラックス」

「しかし、いずれにしても、トム……黙っていてくれ。わたしが話したことは――つまり、我々が話したことは、という意味だが。我々が分霊箱のことを気軽に話したことが知れると、世間体が悪い。ホグワーツでは、つまり、この話題は禁じられている……ダンブルドアは特にこのことについて厳しい……」

ダンブルドアの知るかぎり、魂を2つに引き裂く以上のことをした魔法使いは、それまで一人もいませんでした[1:10]

ヴォルデモートの分霊箱

6つの分霊箱

ヴォルデモートが目指したのは、魂を7つに分けることでした。ただしこれは分霊箱を7つ作るという意味ではありません[1:11]

『ハリー・ポッターと謎のプリンス』第23章「ホークラックス」

「しかし、まず、ハリー、七個の分霊箱ではない。六個じゃ。七個目の魂は、どのように損傷されていようとも、蘇った身体の中に宿っておる。長年の逃亡中、幽霊のような存在で生きていた部分じゃ。それなしでは、あの者に自己というものはまったくない。その七番目の魂こそ、ヴォルデモートを殺そうとする者が最後に攻撃しなければならない部分じゃ――ヴォルデモートの身体の中に棲む魂の欠けらじゃ」

分霊箱に選ばれたのは、由緒ある品々でした。勝利のトロフィーを集めたがり、強力な魔法の歴史を持つ物を好んだためで、ブリキ缶や古い薬瓶のような、ありふれた品を使うことは考えられないとダンブルドアは述べています[1:12]。ホグワーツの四人の創始者の遺品も、その頭の中で強い引力になっていました[1:13]

分霊箱 破壊した人物 手段
トム・リドルの日記 ハリー・ポッター バジリスクの牙[10]
マールヴォロ・ゴーントの指輪 アルバス・ダンブルドア グリフィンドールの剣[1:14][11]
スリザリンのロケット ロン・ウィーズリー グリフィンドールの剣[2:3]
ハッフルパフのカップ ハーマイオニー・グレンジャー バジリスクの牙[8:1]
レイブンクローの髪飾り ビンセント・クラッブの放った悪霊の火[8:2]
ナギニ ネビル・ロングボトム グリフィンドールの剣[12]
ハリー・ポッター ヴォルデモート 死の呪文[13][14]

指輪を破壊したとき、ダンブルドアはそこにかけられていた呪いを受けて片手を損ないました。スネイプの処置がなければ命を落としていたと本人が語っています[1:15]

ヴォルデモートは、この指輪にはめられていた石が死の秘宝の一つ、蘇りの石であることに気づいていませんでした[14:1]

作るつもりのなかった7つ目

ハリー自身も分霊箱でした。ヴォルデモートが意図して作ったものではなく、度重なる悪行で魂が不安定になっていたために生じたものです[14:2]

『ハリー・ポッターと死の秘宝』第35章「キングズ・クロス」

「きみはのう、ハリー、あの者が期せずして作ってしまった、七つ目の分霊箱だったのじゃ。あの者は、自らの魂を非常に不安定なものにしてしもうたので、きみのご両親を殺害し、幼子までも殺そうという言語に絶する悪行を為したとき、魂が砕けた。あの部屋から逃れたものは、あの者が思っていたより少なかったのじゃ。あの者は、自分の肉体だけではなく、それ以上のものをあの場に置いていったのじゃ。犠牲になるはずだったきみに、生き残ったきみに、あの者の一部が結びついて残されたのじゃ」

分霊箱が一つでも残っていれば、その者はこの世に縛られたままになります。ハリーが禁じられた森へ向かったとき、蛇が生き残ればヴォルデモートは死なないという認識がありました[13:1]

クィリナス・クィレル

クィリナス・クィレルは、ヴォルデモートによって事実上の一時的な分霊箱にされました。自分の内にある、はるかに強い邪悪な魂と戦い続けたことで、肉体的に消耗しています[15]

『毛だらけ心臓の魔法戦士』との類似

吟遊詩人ビードルの物語』に収められた「毛だらけ心臓の魔法戦士」で、魔法戦士は自らの心臓を身体から切り離して隠します。この行為が分霊箱の作成に似ていることは、多くの著述家が指摘してきたとダンブルドアは注釈に書いています[16]

『吟遊詩人ビードルの物語』

この行為と「分霊箱」との類似性に触れた著書は多い。ビードルの主人公は死の回避を求めたわけではないが、明らかに分かつべきではないものを分割した――身体と心臓(魂ではなく)である。

分けたものが魂ではなく身体と心臓である点、そして死を避けようとしたわけではない点で、両者は異なります[16:1]

登場・言及箇所

脚注


  1. 『ハリー・ポッターと謎のプリンス』第23章「ホークラックス」 ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎

  2. 『ハリー・ポッターと死の秘宝』第19章「銀色の牝鹿」 ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎

  3. 『ハリー・ポッターと死の秘宝』第14章「盗っ人」 ↩︎ ↩︎

  4. 『ハリー・ポッターと死の秘宝』第17章「バチルダの秘密」 ↩︎

  5. 『ハリー・ポッターと死の秘宝』第29章「失われた髪飾り」 ↩︎

  6. 『ハリー・ポッターと死の秘宝』第6章「パジャマ姿の屋根裏お化け」 ↩︎ ↩︎ ↩︎

  7. 『ハリー・ポッターと死の秘宝』第15章「小鬼の復讐」 ↩︎

  8. 『ハリー・ポッターと死の秘宝』第31章「ホグワーツの戦い」 ↩︎ ↩︎ ↩︎

  9. 『ハリー・ポッターと謎のプリンス』第18章「たまげた誕生日」 ↩︎

  10. 『ハリー・ポッターと秘密の部屋』第17章「スリザリンの継承者」 ↩︎

  11. 『ハリー・ポッターと死の秘宝』第33章「プリンスの物語」 ↩︎

  12. 『ハリー・ポッターと死の秘宝』第36章「誤算」 ↩︎

  13. 『ハリー・ポッターと死の秘宝』第34章「再び森へ」 ↩︎ ↩︎

  14. 『ハリー・ポッターと死の秘宝』第35章「キングズ・クロス」 ↩︎ ↩︎ ↩︎

  15. ポッターモア J.K.ローリングからの新着コンテンツ「Professor Quirrell」 ↩︎

  16. 『吟遊詩人ビードルの物語』 ↩︎ ↩︎