ベラトリックス・レストレンジ

ベラトリックス・レストレンジ (Bellatrix Lestrange) は、純血の名門ブラック家に生まれ、ヴォルデモートに最も深く帰依した死喰い人です。旧姓はブラック。闇祓いのフランク・ロングボトムとその妻アリス磔の呪文で廃人にした罪でアズカバンに終身刑を宣告され[1]、1996年の集団脱獄で外へ出ました[2]。魔法省の神秘部ではいとこのシリウス・ブラックをベールの向こうへ落とし[3]、ホグワーツの戦いでモリー・ウィーズリーに敗れて死にました[4]

人物情報

名前: ベラトリックス・レストレンジ(Bellatrix Lestrange)
旧姓: ベラトリックス・ブラック(Bellatrix Black)
生まれ: 1951年[5]
死亡: ホグワーツの戦い(1998年)。モリー・ウィーズリーに敗れた[4:1]
性別: 女性
血統: 純血[6]
種: 人間・魔法族

魔法特性

杖: 鬼胡桃とドラゴンの琴線、三十二センチ、頑固[7]
その他の能力: 閉心術。甥のドラコ・マルフォイに教えている[8]

所属
家族

来歴

生い立ち

ベラトリックス・ブラックは1951年に生まれました。父は Cygnus Black、母は Druella Rosier で、アンドロメダナルシッサという二人の妹がいます[5:3][6:6]

ブラック家には子どもに星や星座の名を付ける習わしがあり[11]、ベラトリックスもオリオン座の星の名です。グリモールド・プレイス十二番地の客間には一族の家系図を刺繍したタペストリーが掛かっており、その最上部には家訓「純血よ永遠なれ」が記されています[6:7]。純血の血筋に背いた者の名は焼き消される決まりで、アンドロメダはマグル生まれのテッド・トンクスと結婚したためにここから消されました。ベラトリックスとナルシッサの名は「すばらしい、きちんとした純血結婚をした」ものとして残っています[6:8]

ホグワーツでの学生時代は語られていません。スリザリンの寮監だったホラス・スラグホーンが「ブラック家は全員わたしの寮だった」と述べており[9:1]、この一族から出た例外はシリウスだけです。

死喰い人として

ベラトリックスはロドルファス・レストレンジと結婚しました[6:9]。夫、その弟ラバスタン・レストレンジとともにヴォルデモートに仕え、シリウスは後にこの三人を「レストレンジたち――夫婦だが――アズカバンにいる」と一括りに呼んでいます[12]

ヴォルデモートが力を失ったあとも、彼女は主人が死んだとは考えませんでした。復活の夜、ヴォルデモートは死喰い人の輪の空席を指して「レストレンジたちがここに立つはずだった」と述べ、アズカバンが開かれた暁には最高の栄誉を受けるだろうと語っています[13]

ロングボトム夫妻への拷問と裁判

ヴォルデモートの失脚後、誰もが安全になったと思っていた時期に、闇祓いのフランク・ロングボトムとその妻アリスが襲われました[1:1]。ベラトリックスは夫ロドルファス、義弟ラバスタン、バーティ・クラウチの息子とともに、主人の居場所を知っていると思い込んで二人に磔の呪文をかけ、心を壊しました。夫が口を割らなかったため、拷問は妻にも及んでいます[1:2]。二人は聖マンゴ魔法疾患傷害病院の隔離病棟に入り、息子ネビルを認識できないまま生き続けました[14]

四人は魔法法律評議会にかけられ、アズカバンでの終身刑を宣告されました。ハリー・ポッターは後にアルバス・ダンブルドアの「憂いの篩」でこの裁判を見ています。この場面で彼女の名は出てきませんが[1:3]、鎖つきの椅子に座る姿はこう描かれます。

『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』第30章「ペンシーブ」

豊かな艶のある黒髪の魔女は、鎖つきの椅子が王座でもあるかのように踏ん反り返り、目を半眼に開いていた。

無実を訴えて泣き叫ぶクラウチの息子とは対照的に、彼女は判決に一片の悔悟も見せませんでした。吸魂鬼に連行される際、クラウチを見上げてこう叫んでいます[1:4]

『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』第30章「ペンシーブ」

「クラウチ、闇の帝王は再び立ち上がるぞよ! われわれをアズカバンに放り込むがよい。われわれは待つのみ! あの方は蘇り、われわれを迎えにおいでになる。ほかの従者の誰よりも、われわれをお褒めくださるであろう! われわれのみが忠実であった! われわれだけがあの方をお探し申し上げた」

この魔女がベラトリックスであることは、ハリーがグリモールド・プレイスで家系図を見たときに明かされます[6:10]

アズカバン

十四年あまりを吸魂鬼の監視下で過ごしましたが、その信念は損なわれませんでした。屋敷しもべ妖精のクリーチャーはシリウスが捨てた家族写真をボイラー室の巣に集めており、そのなかでベラトリックスの写真だけを最前列に置いて、割れたガラスをスペロテープで貼り合わせていました[14:1]

1996年1月、重警備の囚人十人がアズカバンから集団脱獄しました[2:2]。魔法大臣コーネリウス・ファッジはこれを二年半前に脱獄したシリウス・ブラックの手引きによるものと発表し、脱獄囚のなかに「ブラックの従姉」であるベラトリックスがいると述べています[2:3]。実際にはシリウスは無関係で、ファッジはヴォルデモートの復活を認めないために別の説明を必要としていました。

この報せは二人の人物を動かします。両親を襲った者たちが野に放たれたと知ったネビル・ロングボトムダンブルドア軍団の練習に没頭するようになり、ハーマイオニー・グレンジャーに次ぐ速さで呪文を習得しました[2:4]。ハリーもまた、脱獄の報せをきっかけに、リータ・スキーターの取材に応じてヴォルデモート復活の証言を公にする決意を固めています[15]

神秘部(1996年)

1996年6月、ヴォルデモートに誘い出されたハリーたちが魔法省の神秘部に踏み込むと、死喰い人が待ち構えていました。フードを脱いで前に出たのがベラトリックスです[3:1]

『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』第35章「ベールの彼方に」

女が仲間から離れ、前に進み出てフードを脱いだ。アズカバンがベラトリックス・レストレンジの顔を虚ろにし、落ち窪んだ骸骨のような顔にしてはいたが、それが狂信的な熱っぽさに輝いていた。

彼女は予言を渡させるために最年少のジニー・ウィーズリーを拷問すると宣言し、「私がやる」と自ら申し出ました[3:2]。ハリーが主人の名を口にすると激昂し、「混血の舌で、その名を穢すでない」と叫んでいます[3:3]ルシウス・マルフォイが予言球の破損を恐れて制止しなければ、その場で呪文を放っていました。

羽交い絞めにされたネビル・ロングボトムの名を聞くと、彼女は「私はおまえの両親とお目にかかる喜ばしい機会があってね」と笑いました。ネビルは「知っでるぞ!」と吠えて抵抗します[3:4]。彼女はその両親と同じところまで持ち堪えられるか試そうと言い、磔の呪文をかけました[3:5]

死の間では、シリウスと杖を交えました。シリウスは一本目の赤い閃光をかわして笑い、二本目が胸に当たります。彼はベールの向こうへ倒れ込んで消えました[3:6]。当てた呪文が何であったかは書かれていません。ハリーは「あいつがシリウスを殺した!」と叫んで単身追跡し[16]、魔法省のアトリウムで彼女に追いつきました。

彼女はハリーを赤ちゃん声で呼び、シリウスを「私のかわいい従弟」と嘲ります[16:1]。ハリーの放った磔の呪文は一瞬彼女を倒しただけで、すぐに立ち上がってこう教えました[16:2]

『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』第36章「「あの人」が恐れた唯一の人物」

「『許されざる呪文』を使ったことがないようだね、小僧?」ベラトリックスが叫んだ。もう赤ちゃん声を捨てていた。「本気になる必要があるんだ、ポッター! 苦しめようと本気でそう思わなきゃ――それを楽しまなくちゃ――まっとうな怒りじゃ、そう長くは私を苦しめられないよ――どうやるのか教えてやろうじゃないか、え? 揉んでやるよ――」

その態度が崩れたのは、予言が壊れたと知らされたときです。彼女は「嘘だ。おまえは嘘をついている!」と悲鳴を上げ、姿を現したヴォルデモートの足元に身を投げ出して「動物もどきのブラックと戦っていたのです!」と弁明しました[16:3]。ダンブルドアが動かした噴水の魔女像に組み伏せられましたが、去り際のヴォルデモートに引き掴まれて姿くらましします[16:4]

その後クリーチャーが屋敷を出たとき、頼った先が妹ナルシッサだったことを、ダンブルドアはハリーに説明しています[17]

相続と「破れぬ誓い」(1996年)

シリウスの死は、彼女に思わぬ財産をもたらしかけました。ブラック家の屋敷に純血以外への相続を阻む呪文がかかっていた場合、グリモールド・プレイス十二番地は「生存しているシリウスの親族の中でもっとも年長の者」、すなわちベラトリックスに渡ることになります[18]。不死鳥の騎士団は本部からの退去を余儀なくされました。クリーチャー自身も自分は「ミス・ベラトリックス」のものだと言い張り、ハリーへの服従を拒んでいます[18:1]。ダイアゴン横丁では、まだ捕まっていない死喰い人として、魔法省の指名手配ポスターが薬問屋の店先に貼られていました[19]

夏の終わり、ベラトリックスは妹ナルシッサを追ってコークワースのスピナーズ・エンドまで来ました[20][21]。ナルシッサが向かった先はセブルス・スネイプの家です。ベラトリックスは道中この訪問を止めようとしており、家に入ってからも警告を続けました。

スネイプへの不信を、彼女は本人の前で言葉にします。「おまえを信用していないってことさ、スネイプ、おまえもよく知ってのとおり!」[20:1]。理由を問われると、七つの問いを一息に並べました。ヴォルデモートが倒れたときどこにいたか。なぜ探そうとしなかったか。ダンブルドアの懐で何をしていたか。なぜ賢者の石を守ったか。なぜ復活の場にすぐ来なかったか。なぜ神秘部の戦いにいなかったか。そして、五年も手中にありながらなぜハリー・ポッターがまだ生きているのか[20:2]

スネイプはこれを順に切り返し、自分の答えは闇の帝王がすでに聞き届けたものだと述べます。彼女が持ち出したのは、自らの十四年でした[20:3]

『ハリー・ポッターと謎のプリンス』第2章「スピナーズ・エンド」

「私が残った!」ベラトリックスが熱っぽく言った。

「あの方のために何年もアズカバンで過ごした、この私が!」

スネイプが「牢屋の中では大してあの方のお役には立たなかった」と応じると、彼女は吸魂鬼に耐えた自分とホグワーツで安泰だった相手を対置して激昂しました[20:4]。それでも、闇の帝王がスネイプを信じているという一点を突かれると引き下がっています[20:5]

ナルシッサが息子ドラコの身を案じて泣き崩れると、彼女はこう言い放ちました[20:6]

『ハリー・ポッターと謎のプリンス』第2章「スピナーズ・エンド」

「おまえは誇りに思うべきだよ!」ベラトリックスが情け容赦なく言った。

「私に息子があれば、闇の帝王のお役に立つよう、喜んで差し出すだろう」

ところがスネイプは、ナルシッサの求めに応じて破れぬ誓いを立てると告げ、その結び手にベラトリックスを指名します。彼女は口をあんぐり開けたまま、二人の握り合った手の上に杖を置きました。ドラコが失敗したときスネイプが代わって実行するという三つ目の誓いにスネイプが応じたとき、彼女は目を見開いて見つめていました[20:7]

この年、彼女は甥のドラコに閉心術を教えています。スネイプはドラコの防御からそれを見抜きました[22][8:1]

第二次魔法戦争(1997年‐1998年)

1997年夏、ヴォルデモートはマルフォイの館を本拠としました。その夕食会でベラトリックスは、主人が親族の家に留まることを「この上ない名誉」と述べ、「これに優る喜びがありましょうか」と続けています[23]

同じ食卓で、姪ニンファドーラ・トンクスが狼人間リーマス・ルーピンと結婚したことが話題に上がると、彼女は縁を切りました[23:1]

『ハリー・ポッターと死の秘宝』第1章「闇の帝王動く」

「わが君、あんなやつは姪ではありません」

大喜びで騒ぐ周囲の声に負けじと、ベラトリックスが叫んだ。

「私たちは――ナルシッサも私も――穢れた血と結婚した妹など、以来一顧だにしておりません。そんな妹のガキも、そいつが結婚する獣も、私たちとは何の関係もありません」

その姪を、彼女は空中で追い回しました。「七人のポッター」の夜、トンクスは「あいつ、ハリーを狙うのと同じくらいしつこく私を狙ってね、リーマス、私を殺そうと躍起になってた」と語っています。このときトンクスは夫ロドルファスに傷を負わせました[24]

なお、前年にシリウスがヴォルデモートに売られた経路も彼女を通っていました。クリーチャーが持ち出した情報は、ナルシッサとベラトリックスを経由して主人に届いています[25]

マルフォイの館(1998年)

1998年3月、ハリーたちは「人さらい」に捕らえられてマルフォイの館へ連れて行かれました。捕虜を検分したベラトリックスは、闇の印に触れて主人を呼ぼうとします。ところが押収品のなかにグリフィンドールの剣を見つけた瞬間、態度が一変しました。その剣はグリンゴッツの自分の金庫にあるはずのものだったからです[26]

彼女は「人さらい」を一瞬で全員麻痺させ、狼人間フェンリール・グレイバックからも杖をもぎ取りました。このときハリーは彼女を、並外れた技を持ち良心を持たない魔女だと評しています[26:1]。ナルシッサの家であるにもかかわらず命令を下し、杖から噴き出した炎が絨毯に穴をあけました[26:2]

『ハリー・ポッターと死の秘宝』第23章「マルフォイの館」

「もしも本当にポッターなら、傷つけてはいけない」

ベラトリックスは、誰に言うともなくつぶやいた。

「闇の帝王は、ご自身でポッターを始末することをお望みなのだ……しかし、このことをあのお方がお知りになったら……私はどうしても……どうしても確かめなければ……」

ほかの捕虜を地下牢へ送り、彼女はハーマイオニーだけを残して拷問しました。ロンの顔を殴り、「血を裏切る者」は「穢れた血」の次に嫌いだと言い放っています[26:3]。地下から聞こえたのは、剣の出所を問う声でした[26:4]

『ハリー・ポッターと死の秘宝』第23章「マルフォイの館」

「おまえは嘘をついている、『穢れた血』め、私にはわかるんだ! おまえたちはグリンゴッツの私の金庫に入ったんだろう! 本当のことを言え、本当のことを!」

屋敷しもべ妖精ドビーがハリーたちを逃がしたとき、彼女が投げた銀の小刀がドビーを貫きました[7:1][27]。ハリーの杖に代わって残されたのが、彼女から奪った鬼胡桃の杖です。

この逆上ぶりから、ハリーは金庫に分霊箱があると突き止めます。ベラトリックス自身はそれが分霊箱だとは知らされず、「大切な所持品」として預かっていたにすぎない、というのがハリーの見立てでした[7:2]

翌月、ハーマイオニーはポリジュース薬でベラトリックスに変身し、グリンゴッツへ潜入しました。ハリーより背が高く、長い黒髪が背中に波打ち、厚ぼったい瞼の下から蔑む目を向ける姿です[28]。しかし奪った杖はハーマイオニーに十分には従いませんでした。本人から直接勝ち取った杖ではなかったからです[28:1]。金庫を破られたと知ったヴォルデモートは、報せを持ってきた小鬼をその場で殺し、「ベラトリックスやマルフォイのやつらを信用したのは、重大な過ちだった」と考えます。彼女はルシウス・マルフォイとともに、ほかの者を押し退けて扉へ走りました[29]

ホグワーツの戦い(1998年)

禁じられた森でハリーが倒れたとき、彼女はヴォルデモートの最も近くに座っていました。髪も服も乱れ顔は血にまみれていましたが、ほかに怪我はありません[30]。ヴォルデモート自身も倒れて意識を失い、死喰い人たちが離れていくなか、傍らに残ってひざまずいたのは彼女ひとりでした[4:2]

『ハリー・ポッターと死の秘宝』第36章「誤算」

「わが君……わが君……」

ベラトリックスの声だった。まるで恋人に話しかけているようだ。

差し出した手は「俺様に手助けは要らぬ」と退けられます[4:3]

城へ戻ってからの戦いで、彼女は姪のニンファドーラ・トンクスを殺しました。原作本文には描かれておらず、作者の回答で明かされた事実です[31]

大広間ではハーマイオニー・ジニー・ルーナの三人を同時に相手取り、一歩も引きませんでした。放った死の呪文がジニーをかすめたとき、モリー・ウィーズリーが「私の娘に何をする! この女狐め!」と叫んで走り出ます。モリーは加勢しようとした生徒たちを下がらせ、一対一で杖を交えました[4:4]

決闘のさなか、彼女はモリーの子を引き合いに出して嘲ります[4:5]

『ハリー・ポッターと死の秘宝』第36章「誤算」

「私がおまえを殺してしまったら、子どもたちはどうなるだろうね?」

モリーの呪いが右に左に飛んでくる中を跳ね回りながら、ベラトリックスは主君同様、狂気の様相でモリーをからかった。

「ママが、フレディちゃんとおんなじようにいなくなったら?」

この戦いでフレッド・ウィーズリーが死んだばかりでした。モリーの答えは「おまえなんかに――二度と――私の――子どもたちに――手を――触れさせて――なるものか!」です[4:6]

次の瞬間、彼女は笑いました。シリウスがベールの向こうへ倒れたときと同じ笑い声だったと書かれています[4:7]

『ハリー・ポッターと死の秘宝』第36章「誤算」

モリーの呪いが、ベラトリックスの伸ばした片腕の下をかいくぐって踊り上がり、胸を直撃した。心臓の真上だ。

ベラトリックスの悦に入った笑いが凍りつき、両眼が飛び出したように見えた。ほんの一瞬だけベラトリックスは何が起こったのかを認識し、次の瞬間、ばったり倒れた。

ヴォルデモートの怒りが爆発し、マクゴナガル・キングズリー・スラグホーンの三人が吹き飛ばされました。地の文は彼女を「最後の、そして最強の副官」と呼んでいます[4:8]

外見

黒髪と腫れぼったい瞼が特徴です。裁判の記憶では髪は艶やかで、鎖つきの椅子に王座のように座っていました[1:5]。ハリーが日刊予言者新聞の写真で見たときには、シリウスと同じく整った顔立ちの名残を留めながら、アズカバンがその美しさのほとんどを奪っていました[2:5]。神秘部で実際に相対したときの顔は虚ろに落ち窪み、骸骨のようでありながら熱を帯びて輝いていました[3:7]。スピナーズ・エンドでフードを下ろした場面では、色白のナルシッサと対照的な黒髪、厚ぼったい瞼、がっちりした顎と描かれます[20:8]

妹アンドロメダとは容貌が似ています。ハリーは初対面のアンドロメダをベラトリックスと見誤り、思わず杖を取ろうとポケットに手を入れました。近づくにつれて似ている点は目立たなくなり、髪は明るく柔らかい褐色で、目はもっと大きく親しげでした[24:1]

性格・人物像

ヴォルデモートへの帰依が人格の中心にあります。終身刑を宣告された法廷で悔悟を見せず、主人の復活を予告して連行された姿は[1:6]、失脚後に服従の呪文を口実として逃れた死喰い人たちとは対照的です[12:1]。ヴォルデモート自身も、輪の空席を指して彼女たち夫婦を最も忠実な者と呼びました[13:1]。彼女にとってアズカバンの十四年は罰ではなく資格であり、スネイプを問い詰める場でもそれを最大の根拠として持ち出しました[20:9]

苦痛を与えることを目的として扱います。ハリーの磔の呪文が効かなかったとき、彼女は憎しみでは足りない、痛みを与えたいと本気で思い、それを楽しまなければならないと説明しました[16:5]。ロングボトム夫妻への拷問も、情報を得る手段としては夫が口を割らなかった時点で行き止まりでしたが、妻へと引き継がれています[1:7]

ダンブルドアは自分の死に方をスネイプに託す場面で、彼女を「獲物を食らう前にもてあそぶのが好きなベラトリックス嬢」と呼びました[32]。狼人間フェンリール・グレイバックと並べて、そういう死に方は避けたいという文脈での言葉です。

純血の血筋を絶対の基準とし、ハリーを「混血」と呼んで主人の名を口にする資格がないと断じました[3:8]。妹アンドロメダとの断絶も、その基準に沿ったものです[6:11]

忠誠は肉親にも優先します。息子を殺されかねないと泣くナルシッサに、彼女は自分に息子があれば喜んで差し出すと答えました[20:10]。同じ家に育った姉妹でありながら、ナルシッサはこのあとドラコを守るためにスネイプへ破れぬ誓いを求めます。

魔法の能力

決闘の腕は死喰い人のなかでも際立っています。マルフォイの館では四人の「人さらい」を一瞬で全員麻痺させ、狼人間フェンリール・グレイバックからも杖をもぎ取りました。このときハリーは彼女を、並外れた技を持ち良心を持たない魔女だと評しています[26:5]。ホグワーツの戦いではハーマイオニー・ジニー・ルーナの三人を同時に相手取り、一歩も引きませんでした[4:9]。魔法省では、ダンブルドアの放った呪文を逸らしてもいます[16:6]

磔の呪文の使い手として、ロングボトム夫妻の心を壊すほどの威力と持続を示しました[1:8]。この呪文の効き目が術者の意志の強さによることを、彼女はハリーに向かって説明しています[16:7]。ハリーがその意味を理解するのは二年後、ホグワーツでアミカス・カローに同じ呪文をかけたときです[33]

閉心術の使い手でもあり、甥のドラコに教えました[22:1][8:2]。スネイプはドラコの防御を見て、教え手が誰かを言い当てています。

杖は鬼胡桃とドラゴンの琴線、三十二センチ、頑固[7:3]。マルフォイの館でハリーに奪われました。ハーマイオニーが使ったときに十分な働きをしなかったのは、彼女が本人から直接勝ち取ったわけではないからです[28:2]

人間関係

ヴォルデモート

主従の関係を超えた執着です。第一次失脚後、多くの死喰い人が服従の呪文を口実に逃れるなか、彼女は主人を探し続けてアズカバンに入りました[12:2][13:2]。その十四年を、彼女は自らの資格として繰り返し持ち出します[20:11]。禁じられた森ではヴォルデモートの最も近くに座り[30:1]、倒れた彼の傍らにひとり残ってひざまずきました。その呼びかけを地の文は「まるで恋人に話しかけているよう」と書いています[4:10]

作者はこの感情を明言しています。純血の夫を娶ったのは「そうすることが求められていたから」であって、真に愛していたのは常にヴォルデモートだったというものです[31:1]

『ハリー・ポッターと呪いの子』では、二人のあいだにデルフィーという娘がいたことが明かされます。ヴォルデモートの前に現れたデルフィーが、自分はホグワーツの戦いの前にマルフォイの館で生まれたと名乗り出る場面です[10:1]。同じ台詞のなかで、出生を告げたのがロドルファス・レストレンジだったことも語られます。

『ハリー・ポッターと呪いの子』第4幕

ベラトリックスの忠実な夫のロドルファス・レストレンジがアズカバンから戻ってきたときに、私が何者かを教え、そして、予言を私に明かしました。彼はそれを成就するのが私の運命だと考えました。私は、あなた様の娘です。

出生をめぐるこれらの記述は、いずれもデルフィー自身の申告として語られます[10:2]

ヴォルデモートの側の評価は一様ではありません。彼女の死には激怒し、地の文が「最後の、そして最強の副官」と呼ぶほどの位置にありましたが[4:11]、その直前にはグリンゴッツの金庫を破られたことで「ベラトリックスやマルフォイのやつらを信用したのは、重大な過ちだった」と考えていました[29:1]

シリウス・ブラック

同じ家に生まれた従弟です[2:6]。一族でただ一人グリフィンドールに組み分けられ、家系図から名を焼き消されたシリウスと、家訓を体現した彼女は正反対の道を歩みました[6:12][9:2]

神秘部でその関係は終わります。彼女はシリウスをベールの向こうへ落とし[3:9]、直後にハリーへ「私のかわいい従弟の敵を討ちにきたんじゃないのかい?」と嘲りました[16:8]。シリウスの死は、彼女に屋敷としもべ妖精の相続権をもたらしかけてもいます[18:2]。彼女が倒される直前に上げた笑い声を、原作はこのときの笑いと同じものとして書いています[4:12]

ナルシッサ・マルフォイ

三姉妹のうち、純血の家に残った二人です。スピナーズ・エンドへは妹を止めるために同行し[20:12]、マルフォイの館では妹の家であるにもかかわらず命令を下しました[26:6]

二人を分けるのは、忠誠の順序です。息子を失うかもしれないと泣くナルシッサに、彼女は自分に息子があれば喜んで差し出すと答えました[20:13]。そのナルシッサは、ドラコを守るためにスネイプへ破れぬ誓いを求め、最後にはヴォルデモートに嘘をついています。

アンドロメダ・トンクスとニンファドーラ・トンクス

妹アンドロメダはマグル生まれのテッド・トンクスと結婚し、家系図から名を焼き消されました[6:13]。ベラトリックスはこれを裏切りとみなし、その娘ニンファドーラも「姪ではありません」と切り捨てています[23:2]

容貌は似ています。ハリーは初対面のアンドロメダをベラトリックスと見誤りました[24:2]。姪のほうは実際に狙われ、「私を殺そうと躍起になってた」と語っています[24:3]。ホグワーツの戦いでニンファドーラを殺したのは、この伯母でした[31:2]

モリー・ウィーズリー

接点は最後の一度だけです。彼女の放った死の呪文が娘ジニーをかすめたとき、モリーは加勢を断って単身決闘に臨みました[4:13]。彼女はモリーの子を引き合いに出して嘲りましたが、その呪いがベラトリックスの心臓を撃ち抜きます[4:14]

ハリー・ポッター

名付け親を奪われたことで、ハリーにとって彼女はヴォルデモートに次ぐ敵になりました[16:9]。もっともマルフォイの館では、ヴォルデモートが自ら手を下すことを望んでいるという理由で、ハリーを傷つけまいとしています[26:7]

彼女がハリーに残したものもあります。許されざる呪文には本気が要るという教えは[16:10]、二年後にハリー自身の口から繰り返されました[33:1]

名前

ベラトリックス (Bellatrix) はラテン語で「女性の戦士」を意味し、オリオン座のγ星の固有名でもあります。

ブラック家には子どもに星や星座の名を付ける習わしがあり、ポッターモアはこれを一族の伝統として挙げています[11:1]

ポッターモア J.K.ローリングからの新着コンテンツ「命名予見者」

たとえばブラック家などでは、子どもには星や星座の名前を付ける習わしがあります(非常に高い野心と自尊心を持つこの一族にはぴったりだと言う人も多くいます)。

妹ナルシッサはこの流儀から外れますが、いとこのシリウス(おおいぬ座α星)とレギュラス(しし座α星)は星の名です。

父の Cygnus もはくちょう座の学名で、この流儀に沿っています。ただし両親の名が出てくるのはローリング自筆の家系図だけなので、日本語の表記は定まっていません[5:4]。この記事では英語のまま記しています。

J.K.ローリングのコメント

2007年7月30日のブルームズベリー社のライブチャットで、読者が二つの点を尋ねました。ホグワーツの戦いでリーマス・ルーピンとニンファドーラ・トンクスを殺したのは誰か、そしてベラトリックスの結婚についてです[31:3]。このライブチャットに公式の日本語訳はないため、以下は原文を示したうえで訳を添えています。

J.K. ローリングのライブチャット(2007年7月30日)

Remus was killed by Dolohov and Tonks by Bellatrix.

(リーマスはドロホフに、トンクスはベラトリックスに殺されました)

J.K. ローリングのライブチャット(2007年7月30日)

She took a pureblood husband, because that was what was expected of her, but her true love was always Voldemort.

(彼女は純血の夫を娶りました。そうすることが求められていたからです。しかし真の愛はいつもヴォルデモートでした)

前者は、原作本文に描かれていない死因を確定させる回答です。姪を殺したのが伯母であったことは、この発言によって初めて明らかになりました。

年表

年表

1951年

  • ベラトリックス・ブラック誕生[5:5]

1981年ごろ

  • フランクとアリスのロングボトム夫妻を磔の呪文にかけ、心を壊す[1:9]
  • 魔法法律評議会でアズカバンの終身刑を宣告される[1:10]

1996年1月

  • 十人の重警備囚とともにアズカバンを脱獄[2:7]

1996年6月

  • 神秘部でネビル・ロングボトムに磔の呪文をかけ、シリウス・ブラックをベールの向こうへ落とす[3:10]
  • 魔法省のアトリウムでハリーと戦い、ヴォルデモートに救い出される[16:11]

1996年夏

  • スピナーズ・エンドでスネイプを糾弾し、「破れぬ誓い」の結び手を務める[20:14]

1997年7月

  • 「七人のポッター」の空中戦でニンファドーラ・トンクスを狙う[24:4]

1998年3月

  • マルフォイの館でハーマイオニー・グレンジャーを拷問し、ドビーを殺す[26:8][7:4]

1998年5月

  • グリンゴッツの金庫を破られ、ヴォルデモートの信頼を失う[29:2]
  • ホグワーツの戦いでニンファドーラ・トンクスを殺す[31:4]
  • モリー・ウィーズリーとの一騎打ちに敗れて死亡[4:15]

登場・言及箇所

脚注


  1. 『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』第30章「ペンシーブ」 ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎

  2. 『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』第25章「追い詰められたコガネムシ」 ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎

  3. 『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』第35章「ベールの彼方に」 ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎

  4. 『ハリー・ポッターと死の秘宝』第36章「誤算」 ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎

  5. J.K. ローリング自筆「ブラック家の家系図」(2006年、Book Aid International チャリティオークション出品) ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎

  6. 『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』第6章「高貴なる由緒正しきブラック家」 ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎

  7. 『ハリー・ポッターと死の秘宝』第24章「杖作り」 ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎

  8. ポッターモア J.K.ローリングからの新着コンテンツ「ドラコ・マルフォイ」 ↩︎ ↩︎ ↩︎

  9. 『ハリー・ポッターと謎のプリンス』第4章「ホラス・スラグホーン」 ↩︎ ↩︎ ↩︎

  10. 『ハリー・ポッターと呪いの子』第4幕 ↩︎ ↩︎ ↩︎

  11. ポッターモア J.K.ローリングからの新着コンテンツ「命名予見者」 ↩︎ ↩︎

  12. 『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』第27章「パッドフット帰る」 ↩︎ ↩︎ ↩︎

  13. 『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』第33章「死喰い人」 ↩︎ ↩︎ ↩︎

  14. 『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』第23章「隔離病棟のクリスマス」 ↩︎ ↩︎

  15. 『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』第26章「過去と未来」 ↩︎

  16. 『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』第36章「「あの人」が恐れた唯一の人物」 ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎

  17. 『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』第37章「失われた予言」 ↩︎

  18. 『ハリー・ポッターと謎のプリンス』第3章「遺志と意思」 ↩︎ ↩︎ ↩︎

  19. 『ハリー・ポッターと謎のプリンス』第6章「ドラコ・マルフォイの回り道」 ↩︎

  20. 『ハリー・ポッターと謎のプリンス』第2章「スピナーズ・エンド」 ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎

  21. ポッターモア J.K.ローリングからの新着コンテンツ「コークワース」 ↩︎

  22. 『ハリー・ポッターと謎のプリンス』第15章「破れぬ誓い」 ↩︎ ↩︎

  23. 『ハリー・ポッターと死の秘宝』第1章「闇の帝王動く」 ↩︎ ↩︎ ↩︎

  24. 『ハリー・ポッターと死の秘宝』第5章「倒れた戦士」 ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎

  25. 『ハリー・ポッターと死の秘宝』第10章「クリーチャー語る」 ↩︎

  26. 『ハリー・ポッターと死の秘宝』第23章「マルフォイの館」 ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎

  27. 『ハリー・ポッターと死の秘宝』第28章「鏡の片割れ」 ↩︎

  28. 『ハリー・ポッターと死の秘宝』第26章「グリンゴッツ」 ↩︎ ↩︎ ↩︎

  29. 『ハリー・ポッターと死の秘宝』第27章「最後の隠し場所」 ↩︎ ↩︎ ↩︎

  30. 『ハリー・ポッターと死の秘宝』第34章「再び森へ」 ↩︎ ↩︎

  31. J.K. ローリングのライブチャット(2007年7月30日) ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎

  32. 『ハリー・ポッターと死の秘宝』第33章「プリンスの物語」 ↩︎

  33. 『ハリー・ポッターと死の秘宝』第30章「セブルス・スネイプ去る」 ↩︎ ↩︎