ニワトコの杖

ニワトコの杖 (Elder Wand) は、この世に存在するどの杖よりも強く、持ち主が決闘に負けないとされる杖です。死の秘宝の一つに数えられ、歴史を通じて「死の杖」「宿命の杖」などの名で呼ばれてきました[1][2]。所有権は、前の持ち主を打ち負かした者へ移ります[3]

基本情報

名称: ニワトコの杖 (Elder Wand)
別名: 死の杖、宿命の杖
分類: 死の秘宝の一つ
杖木: ニワトコ。杖用の木材のなかで最も希少で、最も使いこなしが難しい
芯: セストラルの尾の毛
所有権: 前の持ち主を打ち負かした者へ移る。殺害である必要はなく、武装解除でも移る
最後の所在: アルバス・ダンブルドアの墓

三人兄弟の物語

杖の起源は、『吟遊詩人ビードルの物語』所収の「三人兄弟の物語」に語られています。三人の兄弟が魔法で川に橋を架けたとき、欺かれた「死」が褒美を装って三つの品を与えます。長兄が求めたのが、決闘に必ず勝つ杖でした[1:1]

『吟遊詩人ビードルの物語』

一番上の兄は戦闘好きでしたから、存在するどの杖よりも強い杖をくださいと言いました。決闘すれば必ず持ち主が勝つという、『死』を克服した魔法使いにふさわしい杖を要求したのです! そこで『死』は、川岸のニワトコの木まで歩いていき、下がっていた枝から一本の杖を作り、それを一番上の兄に与えました。

物語では、長兄はこの杖で敵を打ち負かし、旅籠でそれを自慢しました。その晩、杖を狙った魔法使いが、酔って眠る長兄の喉を掻き切って杖を奪います[1:2]

同書に注釈を寄せたアルバス・ダンブルドアは、この杖が実在すると信じる者たちの主張を次のように整理しています[1:3]

『吟遊詩人ビードルの物語』

「ニワトコの杖」の信奉者たちは、この杖が――新しい持ち主が前の所有者を屈服させ、もしくは殺したという経緯から――常に新しい持ち主に忠誠心を移してきた杖であり、葬られもせず、荼毘にも付されずに生き延び、通常の杖をはるかに超える英知や力を蓄えてきたと考えている。

杖の持ち主が亡くなると遺体とともに杖を葬る習慣があるのは、一本の杖があまりに多くの持ち主から学習することを防ぐためです。ニワトコの杖はその習慣の外にあり続けた、というのが信奉者の理屈でした[1:4]

ニワトコという杖木

ニワトコは、杖用の木材のなかで最も希少です。J.K.ローリングがオリバンダーの名義で著した解説によれば、どの杖よりも使いこなすのが難しく、持ち主が仲間より劣っていると感じれば見切りをつけます[4]

ポッターモア J.K.ローリングからの新着コンテンツ「杖用の木材」

あらゆる杖用木材の中で最も希少で、不幸を招くと伝えられるニワトコの杖は、どんな杖よりも使いこなすのが難しい。強力な魔力を宿しているが、自分の持ち主が共にいる仲間より劣っていると感じれば、持ち主に見切りをつける。このため、抜きんでた力を持つ魔法使いでなければ、ニワトコの杖を長く所有することはできない。

杖の芯については、J.K.ローリングが旧公式サイトでセストラルの尾の毛だと明かしています。この出典に公式の日本語訳はありません[5]

J.K. ローリング旧公式サイト「The Elder Wand」

I decided that the core of the Elder Wand is the tail hair of a Thestral; a powerful and tricky substance that can be mastered only by a witch or wizard capable of facing death.

(ニワトコの杖の芯はセストラルの尾の毛だと決めました。強力で扱いの難しい素材で、死に向き合うことのできる魔法使いにしか御することができません)

杖作りの間にはニワトコ材を嫌う傾向があり、「ニワトコの杖、永久に不幸」という古い諺も残っています[1:5]。ただしダンブルドアはこれを何の根拠もない諺の類に数え、オリバンダー名義の解説も、迷信そのものに根拠はないとしています[1:6][4:1]

所有権の移り方

ニワトコの杖の真の主となるには、前の持ち主から杖を奪い取らなければなりません。ゼノフィリウス・ラブグッドは、この伝わり方こそ杖の跡を追える理由だと語りました[3:1]

『ハリー・ポッターと死の秘宝』第21章「三人兄弟の物語」

その方法とは、真に杖の所持者となるためには、その前の持ち主から杖を奪わなければならないということだ。『極悪人エグバート』が『悪人エメリック』を虐殺して杖を手に入れた話は、もちろん聞いたことがあるだろうね?

奪い方は殺害である必要がありません。相手を武装解除するだけでも忠誠は移ります。この一点が最終決戦の帰趨を決めることになりました[6]

杖を持つことには危険がついて回ります。ギャリック・オリバンダーは、この杖の持ち主は常に攻撃を恐れなければならないと述べました[2:1]

歴史に名を残した持ち主

ダンブルドアの注釈は、歴史上ニワトコ材の杖を持ったとされる人物を挙げています[1:7]。中世初期の悪人エメリックは、極悪人エグバートとの決闘に敗れて若くして命を落としました。一世紀を経て、闇の魔術書『最も邪悪なる魔術』を著したゴデロットは、息子のヘレワードに杖を奪われ、自宅の地下室で非業の死を遂げます。十八世紀初頭には、バーナバス・デベリルが「庭床の杖」と呼ぶ杖で恐怖政治を敷き、それを終わらせたロクシアスが杖を奪って「死の杖」と改名しました[1:8]

こうした持ち主たちは、みな自分の杖を「不敗」と称しました。しかし多くの手を渡ったという事実は、その杖が何百回も敗北してきたことを示しています[1:9]。ダンブルドアは注釈をこう締めくくりました[1:10]

『吟遊詩人ビードルの物語』

「ニワトコの杖」を所持していると主張した魔女はいない。その意味するところは、読者の解釈にお任せする。

グレゴロビッチからダンブルドアへ

近年の来歴は、ハリー・ポッターが幻視とオリバンダーの証言から明らかにしていきます。杖作りのグレゴロビッチはかつてこの杖を持っており、その噂の出所は本人だったとオリバンダーは考えていました。杖を調べて性質を複製できれば、商売に有利だったからです[2:2]

その杖はゲラート・グリンデルバルドに盗まれます。グリンデルバルドは杖で強大になりましたが、力が最高潮に達したとき、それを止められるのは自分一人だと知ったダンブルドアが決闘を挑み、打ち破りました[2:3]

『ハリー・ポッターと死の秘宝』第24章「杖作り」

「それで、グリンデルバルドは『ニワトコの杖』を使って、強大になった。その力が最高潮に達したとき、ダンブルドアは、それを止めることができるのは自分一人だと知り、グリンデルバルドと決闘して打ち負かした。そして『ニワトコの杖』を手に入れたんだ」

ダンブルドアは杖を長く手元に置きましたが、誇示せず、殺すためにも使いませんでした。キングズ・クロスで本人が語ったところによれば、それこそが自分にこの杖がふさわしかった理由でした[7]

『ハリー・ポッターと死の秘宝』第35章「キングズ・クロス」

ニワトコの杖を所有し、しかもそれを吹聴せず、それで人を殺さぬことに適しておったのじゃ。わしは杖を手なずけ、使いこなすことを許された。なぜなら、わしがそれを手にしたのは勝つためではなく、ほかの人間をその杖から守るためだったからじゃ

ダンブルドアは自らの死をセブルス・スネイプと計画したとき、スネイプが次の主になるよう意図していました。しかしその計画は思惑どおりに運びません[7:1]。ダンブルドアを武装解除したのはドラコ・マルフォイであり、杖の忠誠はそこでドラコへ移っていました[6:1]

ヴォルデモートの探索

ヴォルデモートは、自分の杖がハリーの杖に通用しない理由を探すうち、すべての杖を破ると噂される杖に行き着きました[7:2]。オリバンダーを拉致して尋問し、グレゴロビッチを追い、やがてダンブルドアの墓を暴いて杖を手に入れます[2:4][8]

『ハリー・ポッターと死の秘宝』第32章「ニワトコの杖」

「俺様は、三本目の杖を求めたのだ、セブルス。ニワトコの杖、宿命の杖、死の杖だ。前の持ち主から、俺様はそれを奪った。アルバス・ダンブルドアの墓からそれを奪ったのだ」

ところが杖は本来の力を発揮しませんでした。理由を考え抜いたヴォルデモートは、ダンブルドアを殺したスネイプが真の主なのだと結論し、スネイプを蛇に襲わせて殺します[8:1]

ホグワーツの戦い

最終決戦で、ヴォルデモートはスネイプを殺したことで杖が自分のものになったと宣言しました。ハリーはそれを否定します[6:2]

『ハリー・ポッターと死の秘宝』第36章「誤算」

「まだわかっていないらしいな、リドル? 杖を所有するだけでは十分ではない! 杖を持って使うだけでは、杖は本当におまえのものにはならない。オリバンダーの話を聞かなかったのか? 杖は魔法使いを選ぶ……ニワトコの杖は、ダンブルドアが死ぬ前に新しい持ち主を認識した。その杖に一度も触れたことさえない者だ。新しい主人は、ダンブルドアの意思に反して杖を奪った。その実、自分が何をしたのかに一度も気づかずに。この世で最も危険な杖が、自分に忠誠を捧げたとも知らずに……」

ダンブルドアを武装解除した真の主はドラコであり、そのドラコをマルフォイの館で武装解除したハリーに、杖の忠誠は移っていました[6:3]。二つの呪文が衝突すると、ヴォルデモートの手から杖が舞い上がり、ハリーの空いた手に収まります。ヴォルデモートは、撥ね返った自らの呪文に撃たれて倒れました[6:4]

元の場所へ

戦いのあと、ハリーはニワトコの杖の先端で折れた柊の杖に触れ、「レパロ 直れ」と唱えました。二つに折れていた杖はつながり、先端から赤い火花が飛び散ります[6:5]

そのうえでハリーは、ニワトコの杖を元の場所へ戻すと肖像画のダンブルドアに告げました[6:6]

『ハリー・ポッターと死の秘宝』第36章「誤算」

「元の場所に戻します。杖はそこに留まればいい。僕がイグノタスと同じように自然に死を迎えれば、杖の力は破られるのでしょう? 最後の持ち主は敗北しないままで終わる。それで杖はおしまいになる」

自分が敗北しないまま自然死すれば、杖の力の連鎖はそこで断たれる、という理屈です[6:7]

登場・言及箇所

脚注


  1. 『吟遊詩人ビードルの物語』「三人兄弟の物語」(ダンブルドアの注釈を含む) ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎

  2. 『ハリー・ポッターと死の秘宝』第24章「杖作り」 ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎

  3. 『ハリー・ポッターと死の秘宝』第21章「三人兄弟の物語」 ↩︎ ↩︎

  4. ポッターモア J.K.ローリングからの新着コンテンツ「杖用の木材」 ↩︎ ↩︎

  5. J.K. ローリング旧公式サイト「The Elder Wand」 ↩︎

  6. 『ハリー・ポッターと死の秘宝』第36章「誤算」 ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎

  7. 『ハリー・ポッターと死の秘宝』第35章「キングズ・クロス」 ↩︎ ↩︎ ↩︎

  8. 『ハリー・ポッターと死の秘宝』第32章「ニワトコの杖」 ↩︎ ↩︎